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Zeal of Ultralady 第十七話『俺と大怪獣』 Part8-2
「地球は今より、中生代など比較にならない巨大生物の時代に入る。その過程で、現生人類は環境に適応するため、さらなる進化を遂げるでしょう」
さらに周辺への震動は大きさを増し、今や自力で立っている事すら難しい程であった。
「人類の新たな進化、だと?」
「ええ。星の環境と調和し、絶対的な精神の安定性と、物質に依存しない力を兼ね備えた完全なる知的生物。……地球にとって害毒に過ぎない人類が、逆にもっともこの惑星と調和した存在になるのです。これこそ究極の廃物利用だとは思いませんか? 父さん」
息子の述べる話の突飛さに、その道の権威ともあろう杉崎が圧倒されていた。
不安と怯えを混ぜた表情で、眼前の恭一郎を見据える顔は、もはや人間とは別の生物を見ているかのようであった。
「……だが、仮に人間が巨大生物の跋扈するその環境に適応できなければどうなる!?」
その声を聞いた魔人の人間体は、やや呆れたように肉親を見下ろした。
「滅びるだけですよ。どちらにしろ、この星にとって最大の害毒がなくなるだけの事」
そこで一拍おくと、すぐに元の父を慕う息子の笑顔となって言葉を続ける。
「無論、そうならない事を願っています。僕としても、完全なる知的生物としての力は是非とも手にしたい物ですから」
この瞬間、環境学の権威・杉崎隆太郎は、息子がもはや自分の手の届かない位置に存在している事を悟っていた。
「さあ、共に見届けましょう。この星が生み出した、新たな生命の形を!」
恭一郎の声色は、今や歓喜に震えんばかりの様相を呈していた。
巨大な振動が走り抜けた時、洋美は素早く自らの腕時計に目をやった。
午後五時直前。
ジールの説明によれば、執行庁の怪獣保護部隊が到着する時刻は、もう少し先の事である。
「来たな」
「ええ、来たわね」
“来ましたね”
和人の呟きに、洋美とジールの双方が反応した。
「問題は、相手が一体どこから出て来るのか、だな」
銜え煙草の湯島が、待機所のテントの入り口を開き、ダム湖一体の景色を双眼鏡で眺め回す。
しかし、徐々に地鳴りは激しさを増すばかりで、一向にその原因となる存在を露わにしない。
見れば、遠くに位置するエルダイトも飼料の山から顔を上げ、何やら不審そうな、それでいてのんびりとした調子で周囲を睥睨している。
この光景を目にとめた佐々木が、いきなり素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ! 今、池上さんはエルダイトと最後のお別れをする剛君に付き添ってます。こんな異変が起きた以上、呼び戻しましょう!」
慌てたような指摘に反応して、工藤が腰から班員用の無線機を取り出した時であった。
エルダイトの位置する湖中央部よりさらに南西、ダム湖上流部において、突如巨大な水柱が立ち上る。
そして、巻き起こされた大量の水煙が風に吹き散らされた時、一行は初めてこの土地に現れた二体目の巨大生物の姿を目にしたのである。
「あれは、竜か!?」
呆然と言った士堂の一言が、その姿を的確に表していた。
水と雷の化身。東洋の文明においては神性を持つ幻獣、西洋においては悪の属性を司る魔獣。
今、一班の面々の視線の遙か先に存在するのは、まさにその空想上の存在が形を得た物であった。
頑強な鱗を体表に備え、スマートながら実に強靱な四肢を誇る四足歩行型の体躯。背後へ伸びた鰐のごとき長大な尾。
そして、鋼線がより合わさってできたような極太の首筋の先には、枝分かれした二本の角を持つ伝説通りの頭部。
黒曜石のような黒光りする質感を全身に持ち、雄々しいまでに豊かな鬣と、首から尾に至るまで生えそろった背びれのみが白い色彩を放っている。
軽く120メートルに達する全長の先にある頭部。その中の黄色い双眸が、獰猛な光を湛えてある対象を見据えていた。
すなわち、未だ事情を飲み込めていないかのように、その場で佇む青玉の大怪獣エルダイトを。
「……狙ってやがる。新たなあの怪獣は、エルダイトの事を明確に敵として認識してやがるぞ」
湯島が吐き捨てるように言った矢先、またもその怪獣に変化が現れた。
あろう事か、頸部の側面に存在していた八つの突起部を先頭にして、首そのものが分離を始めたのだ。
より合わさった大縄がほぐされて行くように、その怪獣はものの十数秒で九つの首を持つ異形へと変貌していた。
そうして出来た九つの頭は、どれも元となったそれと変わらぬ竜の面貌を誇っていた。
「ありゃ、九頭竜じゃねえか……。まさかおとぎ話だと思ってた物が、本当に存在するなんて驚きだ!」
それまで、離れた位置でエルダイトの様子を眺めていた剛の父が、地元の昔話を元に、その怪獣の名を明かしていた。
それを聞いた湯島は、何も言わずに横手の工藤へ鋭い目配せを飛ばす。
洋美たちと共に幾多の修羅場をくぐり抜けた元自衛隊員もさる物で、即座に正へ駆け寄って、避難をすべき方向へと誘導してゆく。
その行方を見届けると、一行は改めて新たな怪獣・九頭竜へと向き直る。
「この土地を流れる川が九頭竜川というのは、無数にある支流を竜の頭に見立てた物だからと聞いてましたが、本当にそれを擬した怪獣が出て来るなんて」
「ジールは、あいつについての知識を持っているか?」
“申し訳ありません、剣持さん。あのような通常生物ではありえない身体構造を持つ存在は、私にとっても初めて目にする物です”
案の定というべき答えが戦女神からもたらされた時、とうとう九頭竜はその行動を開始した。
『GISYAAAAAAA!!』
長大な九本の首を乱雑に拡散させるや、自らが狙いと定めた青玉の大怪獣に向かって一斉に口腔をかき開く。
直後、それぞれの口内が輝くや否や、目映いまでの輝きを放つエネルギー流が迸った。
通常の怪獣が放つ攻撃を、キッチリ九倍にもしたかのようなその砲撃は、狙い違わずエルダイトへ直撃し、その巨体をよろめかせた。
重苦しい雨の景色の中で巻き起こる、爆炎と光の奔流。
それを見た瞬間、洋美は意を決していた。
あの近辺には、仲間だけではなく、この土地の自然を守ろうと奮闘してきた多くの人々がいる。
そして、罪もない穏和な大怪獣と、それを愛する少年の思い。
人の姿をした戦女神にとって、その全てが見捨てられるはずのない物であった。
素早く周囲を確認し、仲間以外の人影がない事を確認するや、洋美はペンダントを手に取った。
「私たち、今から出ます」
「ああ。今回は特に気をつけろよ、いつもと条件が違いすぎるからな」
鋭利な刃のような眼光を、遠くの九頭竜に注ぎながら、和人は重い声で洋美たちへ注意を促してくる。
全く同じ方向を見据えながら強く頷くと、栗毛の現代的美人は手にしたペンダントを強く握り込んだ。
「ジィィィィル!!」
決意を湛えた戦女神の姿は、すぐに拳から発生した光の奔流へと埋没していった。
さらに周辺への震動は大きさを増し、今や自力で立っている事すら難しい程であった。
「人類の新たな進化、だと?」
「ええ。星の環境と調和し、絶対的な精神の安定性と、物質に依存しない力を兼ね備えた完全なる知的生物。……地球にとって害毒に過ぎない人類が、逆にもっともこの惑星と調和した存在になるのです。これこそ究極の廃物利用だとは思いませんか? 父さん」
息子の述べる話の突飛さに、その道の権威ともあろう杉崎が圧倒されていた。
不安と怯えを混ぜた表情で、眼前の恭一郎を見据える顔は、もはや人間とは別の生物を見ているかのようであった。
「……だが、仮に人間が巨大生物の跋扈するその環境に適応できなければどうなる!?」
その声を聞いた魔人の人間体は、やや呆れたように肉親を見下ろした。
「滅びるだけですよ。どちらにしろ、この星にとって最大の害毒がなくなるだけの事」
そこで一拍おくと、すぐに元の父を慕う息子の笑顔となって言葉を続ける。
「無論、そうならない事を願っています。僕としても、完全なる知的生物としての力は是非とも手にしたい物ですから」
この瞬間、環境学の権威・杉崎隆太郎は、息子がもはや自分の手の届かない位置に存在している事を悟っていた。
「さあ、共に見届けましょう。この星が生み出した、新たな生命の形を!」
恭一郎の声色は、今や歓喜に震えんばかりの様相を呈していた。
巨大な振動が走り抜けた時、洋美は素早く自らの腕時計に目をやった。
午後五時直前。
ジールの説明によれば、執行庁の怪獣保護部隊が到着する時刻は、もう少し先の事である。
「来たな」
「ええ、来たわね」
“来ましたね”
和人の呟きに、洋美とジールの双方が反応した。
「問題は、相手が一体どこから出て来るのか、だな」
銜え煙草の湯島が、待機所のテントの入り口を開き、ダム湖一体の景色を双眼鏡で眺め回す。
しかし、徐々に地鳴りは激しさを増すばかりで、一向にその原因となる存在を露わにしない。
見れば、遠くに位置するエルダイトも飼料の山から顔を上げ、何やら不審そうな、それでいてのんびりとした調子で周囲を睥睨している。
この光景を目にとめた佐々木が、いきなり素っ頓狂な声を上げた。
「そうだ! 今、池上さんはエルダイトと最後のお別れをする剛君に付き添ってます。こんな異変が起きた以上、呼び戻しましょう!」
慌てたような指摘に反応して、工藤が腰から班員用の無線機を取り出した時であった。
エルダイトの位置する湖中央部よりさらに南西、ダム湖上流部において、突如巨大な水柱が立ち上る。
そして、巻き起こされた大量の水煙が風に吹き散らされた時、一行は初めてこの土地に現れた二体目の巨大生物の姿を目にしたのである。
「あれは、竜か!?」
呆然と言った士堂の一言が、その姿を的確に表していた。
水と雷の化身。東洋の文明においては神性を持つ幻獣、西洋においては悪の属性を司る魔獣。
今、一班の面々の視線の遙か先に存在するのは、まさにその空想上の存在が形を得た物であった。
頑強な鱗を体表に備え、スマートながら実に強靱な四肢を誇る四足歩行型の体躯。背後へ伸びた鰐のごとき長大な尾。
そして、鋼線がより合わさってできたような極太の首筋の先には、枝分かれした二本の角を持つ伝説通りの頭部。
黒曜石のような黒光りする質感を全身に持ち、雄々しいまでに豊かな鬣と、首から尾に至るまで生えそろった背びれのみが白い色彩を放っている。
軽く120メートルに達する全長の先にある頭部。その中の黄色い双眸が、獰猛な光を湛えてある対象を見据えていた。
すなわち、未だ事情を飲み込めていないかのように、その場で佇む青玉の大怪獣エルダイトを。
「……狙ってやがる。新たなあの怪獣は、エルダイトの事を明確に敵として認識してやがるぞ」
湯島が吐き捨てるように言った矢先、またもその怪獣に変化が現れた。
あろう事か、頸部の側面に存在していた八つの突起部を先頭にして、首そのものが分離を始めたのだ。
より合わさった大縄がほぐされて行くように、その怪獣はものの十数秒で九つの首を持つ異形へと変貌していた。
そうして出来た九つの頭は、どれも元となったそれと変わらぬ竜の面貌を誇っていた。
「ありゃ、九頭竜じゃねえか……。まさかおとぎ話だと思ってた物が、本当に存在するなんて驚きだ!」
それまで、離れた位置でエルダイトの様子を眺めていた剛の父が、地元の昔話を元に、その怪獣の名を明かしていた。
それを聞いた湯島は、何も言わずに横手の工藤へ鋭い目配せを飛ばす。
洋美たちと共に幾多の修羅場をくぐり抜けた元自衛隊員もさる物で、即座に正へ駆け寄って、避難をすべき方向へと誘導してゆく。
その行方を見届けると、一行は改めて新たな怪獣・九頭竜へと向き直る。
「この土地を流れる川が九頭竜川というのは、無数にある支流を竜の頭に見立てた物だからと聞いてましたが、本当にそれを擬した怪獣が出て来るなんて」
「ジールは、あいつについての知識を持っているか?」
“申し訳ありません、剣持さん。あのような通常生物ではありえない身体構造を持つ存在は、私にとっても初めて目にする物です”
案の定というべき答えが戦女神からもたらされた時、とうとう九頭竜はその行動を開始した。
『GISYAAAAAAA!!』
長大な九本の首を乱雑に拡散させるや、自らが狙いと定めた青玉の大怪獣に向かって一斉に口腔をかき開く。
直後、それぞれの口内が輝くや否や、目映いまでの輝きを放つエネルギー流が迸った。
通常の怪獣が放つ攻撃を、キッチリ九倍にもしたかのようなその砲撃は、狙い違わずエルダイトへ直撃し、その巨体をよろめかせた。
重苦しい雨の景色の中で巻き起こる、爆炎と光の奔流。
それを見た瞬間、洋美は意を決していた。
あの近辺には、仲間だけではなく、この土地の自然を守ろうと奮闘してきた多くの人々がいる。
そして、罪もない穏和な大怪獣と、それを愛する少年の思い。
人の姿をした戦女神にとって、その全てが見捨てられるはずのない物であった。
素早く周囲を確認し、仲間以外の人影がない事を確認するや、洋美はペンダントを手に取った。
「私たち、今から出ます」
「ああ。今回は特に気をつけろよ、いつもと条件が違いすぎるからな」
鋭利な刃のような眼光を、遠くの九頭竜に注ぎながら、和人は重い声で洋美たちへ注意を促してくる。
全く同じ方向を見据えながら強く頷くと、栗毛の現代的美人は手にしたペンダントを強く握り込んだ。
「ジィィィィル!!」
決意を湛えた戦女神の姿は、すぐに拳から発生した光の奔流へと埋没していった。
コメント
No title
年明けから
今年初めての更新、実にいいところから始まりますね。
16話の鬼に続いて竜というのも、なんだか和風テイストで面白いです。
次回を楽しみにしています。ご無理のないようご執筆ください。
16話の鬼に続いて竜というのも、なんだか和風テイストで面白いです。
次回を楽しみにしています。ご無理のないようご執筆ください。
No title
MFさんこんばんは。
毎回のコメントありがとうございます。
この話は、怪獣と少年の交流の他にも、物語全体の伏線張りを心がけた話ですので、ここまで長くなってしまいました。
それでも、残すPartはあと二つなので、よろしければお付き合い頂けたらと思います。
毎回のコメントありがとうございます。
この話は、怪獣と少年の交流の他にも、物語全体の伏線張りを心がけた話ですので、ここまで長くなってしまいました。
それでも、残すPartはあと二つなので、よろしければお付き合い頂けたらと思います。
No title
こんばんはFeldenさん^^。
いよいよジール登場ですね!ワクワクしています。
しかし恭一郎カコイイですね…。やはりワタクシは悪役に惹かれるところがありまして。ゼクスとは違って静かにオーラを発するようなそんな悪役、良いです!
ではでは、続きを楽しみにしています^^。
※9つの首を持つ竜…文字だと8文字ですけど絵にしたら大変だろうなぁ…なんて思ってしまいました。
いよいよジール登場ですね!ワクワクしています。
しかし恭一郎カコイイですね…。やはりワタクシは悪役に惹かれるところがありまして。ゼクスとは違って静かにオーラを発するようなそんな悪役、良いです!
ではでは、続きを楽しみにしています^^。
※9つの首を持つ竜…文字だと8文字ですけど絵にしたら大変だろうなぁ…なんて思ってしまいました。
No title
shadeさん、こんばんは。
いつもコメントありがとうございます。
第一部ではあえてゼクスの陰に隠し、悪役としての印象を薄くした恭一郎ですが、第二部ではゼクスとタイプの異なる悪役として描こうと思っています。
今回の話に限らず、これからも恭一郎には段階的に大きな悪の計画を進めていかせる予定です。
その点で、いつもお世話になっているshadeさんに気に入って頂けるキャラになれば書き手として嬉しい限りです。
また、九頭竜については同感ですw
3Dにおいても、小説と平行してフィギュア制作もボチボチやって行こうかと思いますが、この怪獣だけは制作する気にはなれませんw
それでは、コメント本当にありがとうございました。
いつもコメントありがとうございます。
第一部ではあえてゼクスの陰に隠し、悪役としての印象を薄くした恭一郎ですが、第二部ではゼクスとタイプの異なる悪役として描こうと思っています。
今回の話に限らず、これからも恭一郎には段階的に大きな悪の計画を進めていかせる予定です。
その点で、いつもお世話になっているshadeさんに気に入って頂けるキャラになれば書き手として嬉しい限りです。
また、九頭竜については同感ですw
3Dにおいても、小説と平行してフィギュア制作もボチボチやって行こうかと思いますが、この怪獣だけは制作する気にはなれませんw
それでは、コメント本当にありがとうございました。
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以前に比べて遅筆となりますが、今年も定期的に更新できるよう頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。