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Zeal of Ultralady 第十七話『俺と大怪獣』 Part7-1
7
渡辺の一報を聞いた城島は、大野市街地の後方待機所より観測ヘリを上げていた。
雨天の夜半にも関わらず、である。
今や対巨大生物戦のスペシャリストとして名をはせる対策室の指揮者だけあり、初動調査の重要性が嫌と言うほど骨身に染みているための判断であった。
そして30分後、固唾を飲んで見守るDEMIO調査課の面々と、尾島親子にもたらされた情報は、渡辺の報告を詳細に裏付ける物であった。
事件の現場となった自衛隊の前線駐屯地は、真名川ダム上流の中島地区。
1970年まで独立した山村であったその地域には、現在麻那姫湖青少年旅行村という施設が整備され、同市の観光スポットの一つとなっている。
青少年旅行村とは、旧運輸省の補助制度によって、過疎地域の振興に資する観光施設である。その内容としては、一言で言ってしまうのなら山間に開かれたキャンプ場というのが妥当な所であろう。
それだけに、山岳地帯としては貴重な平坦な土地であり、今回自衛隊はそれを利用して対怪獣戦の部隊を駐屯させていたのだ。
だが、観測ヘリから送られた画像は、まさに戦闘部隊の壊滅といった惨状であった。
辛うじて周囲の山間に逃げ込んだ隊員たちは意外に多かったが、それ以外の装甲車やテント類の装備品は、軒並み巨大な力によって叩き潰され、一つとして無事な物は存在しなかった。
当然、観測ヘリ一機のみで救助活動に入れる訳もなく、即座に無線を通じて本部の城島たちに現況を知らせるに留まっていた。
「肝心の有害性巨大生物は見あたらんか。生存者の救出は別として、まず報告を受けんと次の行動は決められんな」
苦り切った表情の城島は、会議場の旅館まで乗り付けてきたRVタイプの指揮車から、無線機のマイクを取り出した。
「こちら城島。伊崎、聞こえるか?」
周囲の注視を受けつつ、巨漢の対策室指揮者は自らの片腕とも言うべき女性士官に連絡を取る。
『こちら伊崎。城島隊長、指示を願います』
有能な女性士官の応答第一声には、全く無駄なフレーズが混ざっていなかった。
「待機している救出部隊を出動させろ。絶対に警戒は怠るな」
『了解しました。早期警戒のため、オウル3及び4二機を先行させます』
「許可する。以上だ」
飾り気も何もない会話を済ませると、城島は背後で成り行きを見守っていた面々へ固い表情を見せた。
「城島君、やはり自衛隊の部隊を襲ったのは……」
「ちげーよ! エルダイトじゃねえ!! あいつは絶対無駄な争いをするような奴じゃねえよ!!」
すかさずいきり立つ剛に、背後から池上が暖かな視線を注いでいた。
「なら、信じてあげなきゃね。すぐに調査結果が出るだろうけど、私もあの怪獣が犯人とは思えないし」
ニッコリと笑って自分の肩に手を置いてくる年上の女性学者に、剛は初めて安堵するような表情を見せていた。
果たして、剛の確信と池上の推測は本当の事となっていた。
雨がやんだ翌朝、一般の面々は、問題の中島地区とダムに注ぎ込む真名川上流一体の調査にかり出された。
そして、その内のどの地域でも、問題となったエルダイトの体組織は検出されなかったのである。
さらには、中島地区と真名川ダムを結ぶ渓谷一体の様子など、専門家でない者が見ても何が起こったのか一目瞭然であった。
渓谷の谷底に存在する樹木が、軒並み上流から下流に向かって押し倒されているのである。
これは、中島地区の自衛隊部隊を急襲した存在が、次に下流の真名川ダム方面へ移動した事を示す証拠であった。
決定的だったのが、部隊の生存者の証言である。
小隊ごと付近の山中に逃げ込み、からくも事なきを得た者達の証言によると、部隊を襲ったのはエルダイトとは似て非なる姿の巨大生物だという。
闇夜の中での事、その細部までは確認できなかったものの、辛うじてシルエットから伺える形状は次の通りであった。
形状は四足歩行。ガッシリとした胴体部を持つエルダイトと異なり、比較的スマートで長大な体格を誇っていた。
尾と首が長く、全長にすれば優に100メートルを超す巨体だとわかった。
特筆すべきは首の形状で、長さもさる事ながら、太く非常に頑強な構造と見て取れ、その所々に存在する突起部から、無数の破壊光線を乱射して部隊を壊滅に追い込んだという。
調査活動が一段落した一般の者たちは、対策室によって設けられた待機所のテント内で意見の取りまとめに入っていた。
「この土地に飛来したネルザス星人の怪獣用保管チェンバーは一機。しかし、現実には怪獣が二体存在する可能性が濃厚だ。これが何を意味するのか、あなた方の意見を聞かせてほしい」
開口一番、そう切り出した山岸に、和人が手を挙げる。
「現在の巨大生物災害の状況を作り出したのは、ネルザスに付き従っていたゼクスノーツと名乗る巨人です。その奴が、予めこの土地に別種の怪獣を潜ませていた、と俺らは予測しています」
「なるほどな。その論拠を聞かせて貰えるか?」
横手の城島からの質問に、好青年は軽く頷いて話を続ける。
「まず、飛来時に観測された怪獣用保管チェンバーのサイズは、百×五十メートルほどの円筒形。その容積を計算すると、どううまく収納してもあのエルダイトを一体を収めるのが限界でしょう」
「確かに。だが、もう一体の怪獣がゼクスノーツの手による物。と結論づけるに足る根拠はあるのか、剣持君?」
「タイミングですよ、城島さん」
何やら思うところがあるらしい和人は、浮かない顔で続けた。
「現状において、あのゼクスノーツの最大の障害となっているのは、恥ずかしながら俺たち人類の組織よりも、ウルトラレディ・ジールの方です。そして、その彼女が昨日この土地に現れた晩にもう一体の怪獣が現れるなど、あまりにも出来すぎたタイミングです」
「ということは、君はあのエルダイトがジールたちに対する囮の怪獣と言うのか?」
「おそらくは。そして……」
そこで、俄に表情を渋くして口ごもる。
チラリと剛の顔にやった眼差しには、申し訳のなさが多分に含まれていた。
この少年の心を傷つけてしまうような意見を出さざるを得ないようである。
「そこから先は俺から説明させてもらいますよ」
相変わらずふてぶてしい表情で、タバコを銜えながら前に出たのは、班長の湯島である。
「つまり、あの悪魔のような巨人は、ジールを仕留めるため、エルダイトを囮として彼女をこの土地におびき寄せた可能性がある。という事です」
「そ、そんな!」
愕然とした声になる剛を殊更無視し、湯島は声を上げた。
「地球の重力にやられているとはいえ、概算によるエルダイトの戦闘能力は過去最強クラス。加えて、それに匹敵する怪獣をもう一体送り込まれたら、いくらジールでもきついでしょうな」
「では、あなた方調査課は、現在大人しくしているエルダイトもいずれ凶暴化する可能性がある。と言いたいのですか」
「左様です。ジールがもう一体の怪獣と交戦に入った段階で、エルダイトもこれまでの穏やかさをかなぐり捨て、その破壊能力を発揮する。といった展開も十分にあるでしょう」
湯島がそう言うが早いか、怪獣と心を通わせる少年が大声を上げた。
「そんな事絶対にねえよ! エルダイトが猫被ってるだけなら、俺が湖に落ちたときに助けてくれたりなんかしねえ! それに、俺はあいつの目を見たんだ。あれは悪意のある目じゃないっ!」
必死になってエルダイトをかばう剛は、今にも湯島に食ってかかりそうな程であった。
渡辺の一報を聞いた城島は、大野市街地の後方待機所より観測ヘリを上げていた。
雨天の夜半にも関わらず、である。
今や対巨大生物戦のスペシャリストとして名をはせる対策室の指揮者だけあり、初動調査の重要性が嫌と言うほど骨身に染みているための判断であった。
そして30分後、固唾を飲んで見守るDEMIO調査課の面々と、尾島親子にもたらされた情報は、渡辺の報告を詳細に裏付ける物であった。
事件の現場となった自衛隊の前線駐屯地は、真名川ダム上流の中島地区。
1970年まで独立した山村であったその地域には、現在麻那姫湖青少年旅行村という施設が整備され、同市の観光スポットの一つとなっている。
青少年旅行村とは、旧運輸省の補助制度によって、過疎地域の振興に資する観光施設である。その内容としては、一言で言ってしまうのなら山間に開かれたキャンプ場というのが妥当な所であろう。
それだけに、山岳地帯としては貴重な平坦な土地であり、今回自衛隊はそれを利用して対怪獣戦の部隊を駐屯させていたのだ。
だが、観測ヘリから送られた画像は、まさに戦闘部隊の壊滅といった惨状であった。
辛うじて周囲の山間に逃げ込んだ隊員たちは意外に多かったが、それ以外の装甲車やテント類の装備品は、軒並み巨大な力によって叩き潰され、一つとして無事な物は存在しなかった。
当然、観測ヘリ一機のみで救助活動に入れる訳もなく、即座に無線を通じて本部の城島たちに現況を知らせるに留まっていた。
「肝心の有害性巨大生物は見あたらんか。生存者の救出は別として、まず報告を受けんと次の行動は決められんな」
苦り切った表情の城島は、会議場の旅館まで乗り付けてきたRVタイプの指揮車から、無線機のマイクを取り出した。
「こちら城島。伊崎、聞こえるか?」
周囲の注視を受けつつ、巨漢の対策室指揮者は自らの片腕とも言うべき女性士官に連絡を取る。
『こちら伊崎。城島隊長、指示を願います』
有能な女性士官の応答第一声には、全く無駄なフレーズが混ざっていなかった。
「待機している救出部隊を出動させろ。絶対に警戒は怠るな」
『了解しました。早期警戒のため、オウル3及び4二機を先行させます』
「許可する。以上だ」
飾り気も何もない会話を済ませると、城島は背後で成り行きを見守っていた面々へ固い表情を見せた。
「城島君、やはり自衛隊の部隊を襲ったのは……」
「ちげーよ! エルダイトじゃねえ!! あいつは絶対無駄な争いをするような奴じゃねえよ!!」
すかさずいきり立つ剛に、背後から池上が暖かな視線を注いでいた。
「なら、信じてあげなきゃね。すぐに調査結果が出るだろうけど、私もあの怪獣が犯人とは思えないし」
ニッコリと笑って自分の肩に手を置いてくる年上の女性学者に、剛は初めて安堵するような表情を見せていた。
果たして、剛の確信と池上の推測は本当の事となっていた。
雨がやんだ翌朝、一般の面々は、問題の中島地区とダムに注ぎ込む真名川上流一体の調査にかり出された。
そして、その内のどの地域でも、問題となったエルダイトの体組織は検出されなかったのである。
さらには、中島地区と真名川ダムを結ぶ渓谷一体の様子など、専門家でない者が見ても何が起こったのか一目瞭然であった。
渓谷の谷底に存在する樹木が、軒並み上流から下流に向かって押し倒されているのである。
これは、中島地区の自衛隊部隊を急襲した存在が、次に下流の真名川ダム方面へ移動した事を示す証拠であった。
決定的だったのが、部隊の生存者の証言である。
小隊ごと付近の山中に逃げ込み、からくも事なきを得た者達の証言によると、部隊を襲ったのはエルダイトとは似て非なる姿の巨大生物だという。
闇夜の中での事、その細部までは確認できなかったものの、辛うじてシルエットから伺える形状は次の通りであった。
形状は四足歩行。ガッシリとした胴体部を持つエルダイトと異なり、比較的スマートで長大な体格を誇っていた。
尾と首が長く、全長にすれば優に100メートルを超す巨体だとわかった。
特筆すべきは首の形状で、長さもさる事ながら、太く非常に頑強な構造と見て取れ、その所々に存在する突起部から、無数の破壊光線を乱射して部隊を壊滅に追い込んだという。
調査活動が一段落した一般の者たちは、対策室によって設けられた待機所のテント内で意見の取りまとめに入っていた。
「この土地に飛来したネルザス星人の怪獣用保管チェンバーは一機。しかし、現実には怪獣が二体存在する可能性が濃厚だ。これが何を意味するのか、あなた方の意見を聞かせてほしい」
開口一番、そう切り出した山岸に、和人が手を挙げる。
「現在の巨大生物災害の状況を作り出したのは、ネルザスに付き従っていたゼクスノーツと名乗る巨人です。その奴が、予めこの土地に別種の怪獣を潜ませていた、と俺らは予測しています」
「なるほどな。その論拠を聞かせて貰えるか?」
横手の城島からの質問に、好青年は軽く頷いて話を続ける。
「まず、飛来時に観測された怪獣用保管チェンバーのサイズは、百×五十メートルほどの円筒形。その容積を計算すると、どううまく収納してもあのエルダイトを一体を収めるのが限界でしょう」
「確かに。だが、もう一体の怪獣がゼクスノーツの手による物。と結論づけるに足る根拠はあるのか、剣持君?」
「タイミングですよ、城島さん」
何やら思うところがあるらしい和人は、浮かない顔で続けた。
「現状において、あのゼクスノーツの最大の障害となっているのは、恥ずかしながら俺たち人類の組織よりも、ウルトラレディ・ジールの方です。そして、その彼女が昨日この土地に現れた晩にもう一体の怪獣が現れるなど、あまりにも出来すぎたタイミングです」
「ということは、君はあのエルダイトがジールたちに対する囮の怪獣と言うのか?」
「おそらくは。そして……」
そこで、俄に表情を渋くして口ごもる。
チラリと剛の顔にやった眼差しには、申し訳のなさが多分に含まれていた。
この少年の心を傷つけてしまうような意見を出さざるを得ないようである。
「そこから先は俺から説明させてもらいますよ」
相変わらずふてぶてしい表情で、タバコを銜えながら前に出たのは、班長の湯島である。
「つまり、あの悪魔のような巨人は、ジールを仕留めるため、エルダイトを囮として彼女をこの土地におびき寄せた可能性がある。という事です」
「そ、そんな!」
愕然とした声になる剛を殊更無視し、湯島は声を上げた。
「地球の重力にやられているとはいえ、概算によるエルダイトの戦闘能力は過去最強クラス。加えて、それに匹敵する怪獣をもう一体送り込まれたら、いくらジールでもきついでしょうな」
「では、あなた方調査課は、現在大人しくしているエルダイトもいずれ凶暴化する可能性がある。と言いたいのですか」
「左様です。ジールがもう一体の怪獣と交戦に入った段階で、エルダイトもこれまでの穏やかさをかなぐり捨て、その破壊能力を発揮する。といった展開も十分にあるでしょう」
湯島がそう言うが早いか、怪獣と心を通わせる少年が大声を上げた。
「そんな事絶対にねえよ! エルダイトが猫被ってるだけなら、俺が湖に落ちたときに助けてくれたりなんかしねえ! それに、俺はあいつの目を見たんだ。あれは悪意のある目じゃないっ!」
必死になってエルダイトをかばう剛は、今にも湯島に食ってかかりそうな程であった。
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